推奨BGM
ZARD『この涙 星になれ』
聴けない方の為に…
歌詞は
TV O.A.Ver.CD Ver.に空メールをすると
見られます。
※@b.toを受信出来るようにして下さい。
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師走の背中が
すぐ其処まで来ている。
冷たく寝静まる
週末の夜21時過ぎ。
高層ビルのオフィス街。
和水(カズミ)の
ブーツの音だけが響く。
携帯を開く。
呼出音。
出ない…か。
携帯を握り絞め、
駅へ急ぐ。
階段を降りる。
ぬるま湯のように淀む。
地下鉄のホーム。
滑り込むように
電車に乗り込む。
コートを脱ぎ。
人の波が
駅と車内を行き交う中、
空席に座り。
ほんの少しの、安堵。
と共に、
込み上げて来る、
『オモイ』
溜め息で押し殺す。
駅に着く。
押し出されるように
改札へ向かいつつ、
再び携帯を耳を当て。
聞き慣れた声。
「…和水？」
…泣いていい？
「…家着く迄
我慢出来ない？」
…無理。
和水は関を切った様に
話し始めた。
ようやく見付けた、
コールセンターの
研修。
数日を経て。
「井斉さん、
電話出てみようか？」
突然OJT(実地研修)を
告げられ
ほぼ放置で、電話を
とっていたこと。
一人で。
不安な気持ちで、
ただ夢中でこなしたこと。
そのまま
デビュー診断。
不合格。
他の同期は、
皆先輩が付いていたこと。
不合格理由は
新人には難しいもので
リーダー達は声を揃え
気にするな、と声を
掛けて下さったこと。
処理も分からぬままに
電話をこなしたので
後処理が全く駄目で
この時間まで
指導を受けていたこと。
…悔しくて。
何のアドバイスも
ないんだよ？
質問には
答えてくれるけど。
無茶だよ…
でも…
ダカラコソ、
合格(うか)リタカッタ。
自分自身が悔しくて、
悪条件が悔しくて、
無理な審査が悔しくて、
クヤシクテ…
一旦電話を切り、
乗換の電車へ。
携帯のアラームが鳴る迄
眠りの底へ。
降車。
今日がもうじき終わる。
折り畳みの
小さな傘を広げても
冷たい雨は
心身に浸透(しみ)る。
傘は
時に人を孤独にする。
リダイヤル。
少し話をして、
気持ちを落ち着けて。
帰宅。
鍵を開けたが…
ロックされていて
入れない。
ふと考える。
家族は皆
今日…昨日が休日。
この時間では、
恐らく眠っている。
突然、
やりきれない程の
孤独感に襲われる。
自宅の電話に
ワン切りしたり。
…いいや。
家に再び電話をかけ、
留守電にメッセージを。
ドア開カナイカラ
駅ノマックニイルネ
マンションの階段を
降りる途中、
玄関のドアを開ける音が
聞こえた
気ガシタ
よろめきながら
階段を降りる。
玄関前で慌ただしく
響く音
ガ、聞コエタ気ガシタ
聞コエナイ
何モ 聞コエナイ
雨の中
傘を開いて。
少し歩いて。
振り返る。
きっと母は
寝間着姿なのだろう。
私を迎えに行く為に
着替えているのだろうか。
それとも、
寝ている弟を
起こしているのか。
(ゴメンナサイ…)
踵を返して。
冷たい雨の中を
足早に。
帰る場所があるから。
きっと、きっと頑張れる。
頑張レル。
自分に言い聞かせて。
和水は
家族の元へ。
雨は止まない。
静かに。
夜更けを
見守るように
降り続ける。
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